1. 研究ダイジェスト
- 炎症性物質であるプラスミンが男性シミの原因の1つであることを解明しました。
- トラネキサム酸は男性シミの対策に有効であることを解明しました。
- 抗プラスミン活性を有する素材として、オウゴンエキス·ウコンエキスを発見しました。
- オウゴンエキス·ウコンエキスは、トラネキサム酸のシミ抑制効果を高めました。
(図1参照)

2. 研究の背景
一般的に、男性は女性よりも日焼け止めやスキンケア製品を使わない傾向にあり、お肌に日焼けなどによる炎症ダメージが蓄積しやすいと考えられます。男性のシミ実態調査のページでご紹介した、男性のシミは大きく、女性よりも濃いという肌症状の原因はメラニン生成の命令となる「炎症」によるものではないかと考え、検討を行いました。
3. 男性の大きく目立つシミ。その原因は炎症性物質プラスミンであることを発見
概要
シミがある男性の頬および腕から角層を採取し、シミ部位の角層内に含まれている炎症性物質プラスミンの活性を測定しました。また、女性のシミ部のプラスミン活性と比較するとともに、シミの濃さとプラスミン活性に相関関係があるかどうかを確認しました。
プラスミンとは?
紫外線で活性が高まり、様々な因子を介してメラニン生成を促すことが知られている、炎症性物質の一種です(図2)。女性で多く見られる肝斑の原因の一つと考えられています。肝斑の内服薬・外用薬として汎用されているトラネキサム酸は、紫外線ダメージによるプラスミン活性を防ぐことで、肝斑などの色素斑に対する治療効果を発揮することが知られています。

結果
男性の肌のプラスミン活性を測定しました。その結果、日焼けしがちな男性の頬は日焼けしない腕と比べて常に炎症状態にあり、男性のシミ部はさらにプラスミン活性が高いということが判明しました(図3)。

試験方法:医師が老人性色素斑を有すると診断した男性の頬および腕からテープストリッピング法にて角層を採取した。テープから抽出した角層中に含まれるプラスミンによる基質(BOC-VAL-LEU-LYS-AMC)の切断活性をプレートリーダー(Ex 380nm, Em 460nm)にて評価し、プラスミン活性(単位:fmol/min/µg)とした(引用文献2)。なお、プラスミン活性は角層溶液中のタンパク質量で補正した。平均値±SEM、paired t-test **P<0.01(n=16)
次に、男女の頬と腕のプラスミン活性を比較をしたところ、女性よりも男性の方が、紫外線によるダメージを受けやすい頬におけるプラスミン活性が高い傾向でした(図4)。また、シミの濃さとプラスミン活性の相関関係を調べたところ、シミが濃い人ほどプラスミン活性が高い傾向にあることが分かりました(図5)。

試験方法:老人性色素斑がない男性および女性の頬および腕からテープストリッピング法にて角層を採取した。テープから抽出した角層中に含まれるプラスミンによる基質(BOC-VAL-LEU-LYS-AMC)の切断活性をプレートリーダー(Ex 380nm, Em 460nm)にて評価し、プラスミン活性(単位:fmol/min/µg)とした。なお、プラスミン活性は角層溶液中のタンパク質量で補正した。平均値±SEM paired t-test **P<0.01

試験方法:皮膚色データを、CM 700d 分光測色計 (Konica Minolta, Japan)にて測定し、露光部である頬部の色調データから非露光部である上腕内側部の色調データを引いた値を⊿L値とした。シミ部および非シミ部より採取した角層のプラスミン活性(単位:fmol/min/µg)と⊿L(シミの濃さ)の相関関係を算出した。
美容医療等では、肝斑の改善を目的として炎症性物質プラスミンの働きを止める「トラネキサム酸」の外用薬や内服薬が汎用されています。そこで、プラスミン活性が高い男性のシミ(老人性色素斑)に対してもトラネキサム酸配合の製剤が有効ではないかと考え、シミがある男性に対する連用試験を実施しました。
その結果、トラネキサム酸配合のクリームを1か月間塗布し続けることにより、シミの濃さは初期値と比べて約25%、有意に減少することが確かめられました(図6)。つまり、男性のシミ(老人性色素斑)に対して、トラネキサム酸配合製剤は有効であると考えられます。

試験方法:29-55歳の頬にシミを有する日本人男性10名を被験者とした。連用試験期間中は、日焼けを避けながらトラネキサム酸を配合したクリームを1日2回シミ部位に塗布した。クリームはトラネキサム酸(有効量)、乳化剤(10%)、液状油・固形油(30%)、保湿剤(10%)、香料(微量)、精製水(残部)からなるものを使用した。なお、本試験はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則を遵守し、実施された。Mexa meter MX 18 (Courage + Khazaka Electronic GmbH, Germany)にてメラニン量を測定し、露光部である頬部から非露光部である上腕内側部のデータを引いた値(⊿Melanin index)をシミの濃さとした。
考察
トラネキサム酸を配合した製剤は男性のシミに対して有効であることが分かりました。男性のシミ部位で高い活性を示す炎症性物質プラスミンの活性をトラネキサム酸が抑制したことによって、炎症に伴い常時過剰に生成されていたメラニンの生成量を抑制することで、シミを薄くしたと考えられます。
発表先
1)Yamamura et al., Enlarged rete pegs with excessive accumulation of melanosomes leading to darker aging spots revealed by histomorphological measurements of internal structures of the epidermis. International Journal of Cosmetic Science. Volume45, Issue3, June 2023, Pages 387-399 :査読付き論文
2)第30回国際化粧品技術者会連盟本大会 2018(IFSCC Munich Congress 2018):ポスター発表
3)第26回国際化粧品技術者会連盟中間大会 2021(IFSCC Mexico Conference 2021):ポスター発表
4. オウゴンエキス・ウコンエキスはプラスミン活性を抑え、シミ予防効果を発揮することを確認
概要
男性のシミの原因の一つは炎症性物質プラスミンの活性の高さです。炎症しがちな男性の肌状態に対して、より効果的なシミ対策を提案できるように、プラスミンの活性を抑え、トラネキサム酸と相乗的にシミの原因物質メラニンの生成を抑えることができる素材を探索しました。
結果
約200種の植物エキスの中から、プラスミン活性の阻害効果を有する素材を探索しました。その結果、オウゴンエキス・ウコンエキスに、添加濃度に応じた抗プラスミン作用があることを発見しました(図7)。


試験方法:植物エキスによるプラスミンとその基質(BOC-VAL-LEU-LYS-AMC)の切断阻害活性をプレートリーダー(Ex 380nm, Em 460nm)にて評価した。平均値±SEM、Unpaired t-test **P<0.01, ***P<0.001
さらに、プラスミンの抑制効果が見られた6種のエキスが、トラネキサム酸によるメラニン生成抑制効果を高めるのか確認しました。3次元細胞を用いたシミ抑制試験を行ったところ、オウゴンエキスおよびウコンエキスを加えた場合、コントロールよりもメラニン生成量が減少することが確かめられました(図8)。

試験方法:皮膚3次元モデル(MEL-300-A, Kurabo Industries Ltd., Japan)にPBS(Control)もしくはトラネキサム酸および1%植物エキスを添加し、12日間培養した。Cell Counting Kit-8 (Dojindo Molecular Technologies, Inc., Japan) のプロトコルに従って生細胞数を測定した後、細胞からメラニンを抽出した。メラニン量として、吸光度計(MULTISKAN FC, Thermo Fisher Scientific, USA)にて測定した405nmの値を用いた。メラニン量を生細胞数で補正したものをメラニン生成量(Melanin Index)とし、各種素材によるメラニン生成抑制効果を評価した。平均値±SEM、Unpaired t-test *P<0.05, **P<0.01
考察
プラスミン活性が高い男性のシミに対しては、オウゴンエキスおよびウコンエキスが有効であり、トラネキサム酸によるシミ対策効果を相乗的に高めることがわかりました。これらの3成分は、プラスミン活性抑制を介してメラニン生成の命令物質であるα-MSHなどの発現量を制御し、メラニン産生を抑制することで、シミ抑制効果を発揮すると考えられます。
発表先
1)第30回国際化粧品技術者会連盟本大会 2018(IFSCC Munich Congress 2018):ポスター発表
2)第26回国際化粧品技術者会連盟中間大会 2021(IFSCC Mexico Conference 2021):ポスター発表
5. まとめ
皮膚内で炎症を引き起こすプラスミンが、男性の濃く、大きなシミの原因の一つであることを突き止め、その阻害剤であるトラネキサム酸を配合したスキンケア製剤は、男性のシミに対して有効であることを確かめました。また、プラスミン活性を抑える素材としてオウゴンエキスおよびウコンエキスを発見し、それらは男性の肌において、炎症によるシミ生成を防ぐことを見出しました。
引用文献
- K. Maeda, Mechanism of Action of Topical Tranexamic Acid in the Treatment of Melasma and Sun-Induced Skin Hyperpigmentation, Cosmetics 2022, 9(5), 108
- R. Homma et al., Modulation of blood coagulation and fibrinolysis by polyamines in the presence of glycosaminoglycans, The international Journal of Biochemistry & Cell Biology 37, 2005, 1911-1920