1. 研究ダイジェスト
- 大人ニキビはあご(顎)·フェイスラインにくり返しできやすい肌悩みの一つです。
- 思春期ニキビと比べて、大人ニキビは炎症を伴う赤く腫れた状態になりやすいため、治りにくく、ニキビ跡にもなりやすいことが分かりました。
- 生理周期と連動した、肌のバリア機能·水分量の低下が大人ニキビの一因であることを発見しました。
(図1参照)

2. 研究の背景
多くの女性が思春期の時期に悩んだことのあるニキビ(尋常性ざ瘡)。人によっては、20代以降も、いわゆる「大人ニキビ」として発症し続けます。思春期ニキビは額などのTゾーンと呼ばれる部位にできやすいですが、大人ニキビはあごなどのフェイスラインにできやすいと言われています。また、生理前に悪化することや、一度できると治りにくいことなどが報告されています。しかし、大人ニキビの実態を科学的に解明した研究は少なく、その発症メカニズムの多くはいまだ明らかになっていません(図2)。

ニキビの種類と発症メカニズム
STEP1: 閉鎖面皰(白ニキビ)
毛穴付近の角層のターンオーバーが適切に行われなくなり、皮脂や老廃物が毛穴に詰まった状態です。
STEP2: 開放面皰(黒ニキビ)
ニキビ(面皰)の中身が酸化して黒くなった状態です。
STEP3: 紅色丘疹(赤ニキビ)
毛穴に詰まった皮脂により、アクネ菌が増えやすくなった状態です。炎症を伴っているため、目立ちやすく治りにくい炎症性のニキビです。
STEP4: 膿疱(黄ニキビ)
赤ニキビがさらに悪化し、ニキビが化膿した状態です。毛穴の炎症によって周辺の組織に悪影響を及ぼしてしまい、重度の炎症を伴う場合はクレーターのようなニキビ跡を引き起こします。
(図3参照)

参考文献)
·皮膚科診療最前線シリーズ ニキビ最前線(メディカルレビュー社)
·美容皮膚科学BEAUTY 5 Vo.2 No.4 2019(医学出版)
大人ニキビは同じ場所に繰り返しできて、治りにくい?
以前、当社が行ったアンケート調査によると、約7割もの女性が、同じ場所にくり返しニキビができてしまうと回答していました。なかでも、大人ニキビは、あごやフェイスラインなどのUゾーンと呼ばれる部位にできやすいと回答された方が多く、20代・30代女性の肌悩みの一つとなっています(図4)。

調査方法:ニキビ悩みのある15~39歳の女性2,576名を対象とし、WEBによるアンケート調査を実施した(2017年11月・12月実施)。
3. 大人ニキビ(あごニキビ)が生理周期に伴って発症するメカニズムを発見
概要
大人ニキビはあごなどのフェイスラインにくり返しできやすく、一度できると治りにくいと考えられていますが、なぜ大人ニキビがフェイスラインにくり返しできてしまうのか、また、なぜ炎症を伴い、治りにくいのかは明らかになっていません。
当社が以前行った、ニキビに悩む女性を対象にしたアンケート調査によると、くり返すニキビは、ストレスや生理前などのホルモンバランスの乱れ、食生活の乱れなどが原因だと考えている人が多いということが分かりました(図5)。生理痛がひどかったり、日々の仕事によるストレスが蓄積したりしていることが、ニキビの一因となっている可能性が考えられます。
あごなどの部位にくり返しできやすく、かつ治りにくい大人ニキビの真の原因を科学的に明らかにするために、生理周期と肌状態の関係性を調査しました。

図5:ニキビに悩む女性が考えるニキビの原因
調査方法)ニキビ悩みのある20~59歳の女性8,046名を対象とし、WEBによるアンケート調査を実施した。2022年9月実施)
結果
大人ニキビ、思春期ニキビに悩む女性を対象とし、ニキビの発症から完治まで、ご自身のニキビの写真を撮影していただく、観察研究を行いました。その結果、思春期ニキビでは、軽度なニキビ(閉鎖面皰)のまま炎症を起こさず、7日ほどで目立たなくなる一方で、大人ニキビは発症から比較的重度なニキビ(紅色丘疹)を経て完治するまでに20日ほどかかる場合が多く、ニキビ跡ができている例も多数ありました(図6)。

図6.ニキビ発生からの経過観察
試験方法:思春期ニキビに悩む10代(5名)および大人ニキビに悩む20~40代の女性(6名)を対象とし、ニキビの発症から完治までの肌状態を被験者自身によって撮影および記録する観察研究を行った。本試験は、書面によるインフォームドコンセントを取得し、ヘルシンキ宣言※1に基づく倫理的原則に従って実施した。
次に、生理周期と肌状態との関係性を調べました。ニキビの個数は、生理周期の中でも特に、生理前の黄体前期に増加する傾向が見られました。あごやフェイスラインの方が額よりも生理前にニキビが増えやすく、月経期にかけてニキビが残り続けていました(図7)。

図7.生理周期とニキビ個数
試験方法:あごにニキビが毎月3個以上できる22~34歳の日本人女性18名を被験者とし、生理周期にあわせて額、ほほ、あごの3部位のニキビの写真を撮影した。写真を用いて医師によるニキビ(紅色丘疹)の判定を行い、個数を計測した。本試験は、書面によるインフォームドコンセントを取得し、ヘルシンキ宣言※1に基づく倫理的原則に従って実施した。paired t-test(卵胞期との比較): *p<0.05
あごは他の部位よりも角層(肌表面)の水分量が少なく、皮脂量が多い部位ですが、ニキビが増えやすい黄体前期では、生理後の卵胞期と比べて角層水分量が減少していました。また、生理前(黄体後期)から生理中(月経期)にかけて、肌のバリア機能の乱れの指標である水分蒸散量が著しく増加していました(図8)。つまり、あご周辺の部位で特徴的な生理前の乾燥とバリア機能の低下が大人ニキビの一因であると考えられます。

図8.生理周期による肌状態の変動
試験方法:あごにニキビが毎月3個以上できる22~34歳の日本人女性18名を被験者とし、生理周期にあわせて額、ほほ、あごの3部位の皮脂量測定(Sebumeter SM810)、経皮水分蒸散量測定(VAPOSCAN AS-VT100RS)、角層水分量測定(Corneometer CM825)を実施した。本試験は、書面によるインフォームドコンセントを取得し、ヘルシンキ宣言※1に基づく倫理的原則に従って実施した。対応のあるt検定(卵胞期との比較) *: p < 0.0167(多重比較の調整:Bonferroni )
考察
生理周期に伴って、あごニキビの個数が増加すること、および、ニキビ個数が増加する黄体前期から黄体後期にかけて肌表面の水分量が低下し、バリア機能が乱れることを明らかにしました。
あごなどのフェイスラインにおける乾燥とバリア機能の低下は、生理周期に伴って増減する黄体ホルモンによるものだと考えられます(図9)。生理前の黄体前期から黄体後期にかけて、局所的に肌の水分と油分のバランスが乱れることで、毛穴が詰まりやすく、その中でニキビの原因菌であるアクネ菌が増殖しやすい環境が形成され、大人ニキビの発症・悪化につながっている可能性が示唆されます。

図9.生理周期と大人ニキビの関係(著効例)
発表先
1)第39回日本美容皮膚科学会総会・学術大会:口頭発表
2)日本防菌防黴学会第49回年次大会:口頭発表
4. まとめ
大人ニキビ(あごニキビ)は生理周期に伴う肌のバリア機能の低下によって増加すること、そして一度発症してしまうと炎症を伴うニキビになりやすく、治りにくいことを突き止めました。黄体前期から後期にかけて、水分が蒸発しやすくなっている一方で、皮脂量はそれほど変化していないため、水分と油分のバランスが乱れた肌状態になっていると考えられます。このような状況では乾燥による毛穴詰まりやニキビを発症しやすい上に、ニキビの原因菌であるアクネ菌が増殖しやすいため、炎症性のニキビが増加しがちです。
大人ニキビの予防・改善のためには、殺菌成分と抗炎症成分を配合したスキンケア製品を日々使用することによって、肌状態を整えることが重要です。あごなどのフェイスラインは特に念入りにケアすることを心がけましょう。
*1) ヘルシンキ宣言:1964年に世界医師会(World Medical Association : WMA)で採択された、ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則のこと